【生徒作品紹介】Hさんが描く「旅の記憶と光のスポットライト」
今回も、**「平賀美術倶楽部」**の生徒さんの力作をご紹介します。
ご紹介するのはHさんの作品。 アクリル絵具を用い、イギリスの名門・ラングトン社の高級水彩紙を支持体(ベース)に、**F6号(410×318mm)**のサイズで描かれました。
カンディンスキーの「黒」から学んだプロセス
Hさんがアクリル画を学び始めて、本作で早くも3枚目となります。 ここに至るまでのステップとして、抽象絵画の先駆者**ワシリィ・カンディンスキー(1866-1944)**の表現方法をヒントにしたカリキュラムを取り入れました。
以前のブログ(2022/11/13、2023/1/30)
https://tokyo-kaiga.com/blog/20221113-1655/
https://tokyo-kaiga.com/blog/20230131-2000/
でも紹介しましたが、カンディンスキーは「黒」の下地を非常に効果的に使いました。彼によれば、黒を使う理由はこうです。
「黒にくらべれば、他のどんな色も、最も弱い響きしか持っていない色でさえも、ずっと強く、はるかに明確な響きをもっている」
つまり、他の色を鮮やかに響かせるための「黒」なのです。 この課題では、輪郭線を引くのではなく、モチーフの固有色で黒を押し出すように塗り残すことで、色彩を際立たせる技法を体験していただきました。
写真を超えた「絵作り」の楽しさ
この基礎を経て、2枚目からはオリジナルの制作に入りました。 モチーフに選んだのは、Hさんが韓国旅行で訪れた思い出の風景です。
元の写真では、空は平坦で建物の色もやや散漫な印象でしたが、ここからが「絵作り」の醍醐味です。
ブルーのリズム: 写真に捉われない配色の操作で、画面全体に心地よいリズムを作りました。
アクセントの補色: オレンジを効果的に配置し、画面を引き締めています。
遊び心のある雲: 建物の色と呼応する雲の色や形には、観る人を飽きさせない「サービス精神」が溢れています。
まるで遊園地のような、旅の楽しさがストレートに伝わってくる仕上がりになりました。
画材の特性を掴む:アクリル絵具との相性
3枚目となるトップ画像の作品では、Hさんのアクリル絵具に対する適応能力の高さが光っています。
特に注目すべきは**「ムラの作り方」**です。
アクリルや透明水彩は、描いている最中は暗く見えますが、水分が蒸発して乾燥するとやや明るくなる特性があります。この「乾燥後の色」を予測するのは経験が必要で難しいものですが、Hさんはわずか3枚目でこの特性を見事に掴み、美しい濃淡を生み出しています。
舞台照明のような「スポットライト効果」
もう一つの見どころは、画面構成の巧みさです。
主役であるオレンジ色の建物と、その周囲の明るさを際立たせるために、手前をあえて暗く沈めています。
実際の写真はもっと全体が明るかったのですが、あえて外周を暗くすることで、主役にスポットライトが当たっているかのような演出が生まれました。この「照明の当て方」のセンスは実に見事です。
さらなる飛躍へ
現在、ノリに乗っているHさんは、同じ技法でグループ展に向けた4枚目を制作中です。
このまま今の表現を深めるか、あるいは表現の幅を広げるために新しい技法を提案するか……講師として嬉しい悩みは尽きませんが、彼女の成長を間近で見守れるのは、私にとっても最高の喜びです。
平賀美術倶楽部 平賀太郎
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