芸術遺産と相続税――「日本の宝」を守れない制度への問い
三木富雄「EAR」
/170×138× 33.5cm/アルミニウム /1965年/豊田市美術館蔵
2024年に急逝した女優・歌手の中山美穂さんの御子息による相続放棄のニュースを見て、改めて日本の文化人などが置かれた厳しい現状と、相続制度のあり方について考えさせられました。
三木富雄氏の悲劇と「捨てられた宝物」
かつて、耳をモチーフにした作品で世界的に知られた彫刻家・三木富雄氏が亡くなった際、ある衝撃的な話がありました。
御子息が莫大な相続税の支払いに窮し、金属製以外の作品を自ら燃やして処分せざるを得なかったというのです。
作品に価値があるとみなされれば税金が発生しますが、国がそれを売って納税に充ててくれるわけではありません。全作品が適正価格で売却できれば納税も可能でしょうが、現実は厳しく、結果として「相続放棄」を選ばざるを得ない。 これは、日本の制度が「日本の宝物」を自ら捨てさせているに等しい状況ではないでしょうか。
画家の家族として感じた不安と、制度の変遷
私自身、父が名の知られた画家であったため、この問題にはずっとハラハラしてきました。「有名であっても、実際は借家住まいの貧乏作家」というケースは、この世界では決して珍しくありません。
幸い、私自身の経験では(三木先生の事件などが影響したのか、あるいは評価基準の解釈が変わったのか)、かつてのような過酷な課税を免れることができました。 「作品が売れるまではあくまで画材(在庫)としての価値。売れて初めて収益として課税対象になる」という考え方が浸透してきたのかもしれません。
政治と文化遺産への視点
しかし、今回のニュースを見る限り、芸術や文化遺産の継承に関する根本的な問題は解決していないように感じます。 政治資金が非課税で守られている一方で、国の文化を形作る芸術作品が税制度によって消えていく現状。これを見直そうとする動きが政治の場で活発にならないのは、非常に残念なことです。
日本の文化を次世代に繋ぐために、今一度、この歪な制度を真剣に検討してほしいと切に願います。
平賀美術倶楽部 平賀太朗
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