【生徒作品紹介】技法とドラマが織りなす「孤高の尾長鶏」

query_builder 2026/04/05
ブログ
油彩の技法

今回も、**「平賀美術倶楽部」**の生徒さんの素晴らしい作品をご紹介します。

ご紹介するのは、Iさんの作品。
油絵具を用い、**F6号(410×318mm)**のキャンバスに描かれました。



運命的なモチーフとの出会い


鮮やかな色彩と緻密な描写で知られる江戸時代中期の天才絵師、伊藤若冲。彼は鶏を好んでモチーフにしていました。
実は私の友人も大の若冲ファンで、自身でも多くの鶏を飼育しています。先日、その友人から尾長鶏の画像データを大量に送っていただきました。

私自身、画家として必要なモチーフだと感じていましたが、「もしや描きたい生徒さんがいるかもしれない」と期待して教室で画像をお見せしたところ……。
最近、水彩画だけでなく油彩画の様々な表現に挑戦されているIさんが、早速目を輝かせました。

「油彩で描きたいです!どのような技法が合うか、ぜひ教えてください!」

モチーフを提供してくれた友人も、そして尾長鶏自身も喜ぶような、熱意あふれる反応をいただきました。



飽くなき探求心に応える、新たな技法


平賀美術倶楽部では、油彩画において10種類以上の技法を紹介しています。
すべての着彩技法を体験したいという、知識欲旺盛なIさんの存在は、講師としての私の仕事も楽しくさせてくれます。

彼女の期待に応えるため、今回は当然、新たな技法を紹介することにしました。



“写真”ではなく“絵”を描くこと


私は生徒さんに、常々こう伝えています。
「私たちは“写真”を描くのではなく、“絵”を描くことが大切です」

画像をそのまま写し取るのではなく、そこにドラマ性を持たせたり、心の色やタッチを込めて「絵づくり」をしていくこと。Iさんとも、まずは画像を見ながら、この作品の世界観(設定)をじっくりと考えました。

○ 設定:冬の訪れを感じる寒気の中に佇む、孤高の尾長鶏
季節: 晩秋

時間: 朝

天候: 薄曇

○ 絵づくり
構図: 背景を広く取り、余白の美を意識する。

色彩: 「孤高」と「気温」のイメージから寒色系をベースにしつつ、秋の名残りとしてグリーンも残す。

描写: 画像の背景には常緑樹があるが、主役を引き立てるために、あえて「強調」と「省略」を使い分ける。



偶然と必然を操る「流し」の技法


具体的な技法としては、以下のようなプロセスを踏みました。

ベース作り: 水彩画のように溶き油で薄めた絵の具を、何色もムラを作りながら画面全体に広げる。

にじみ: その上に絵の具の濃度を上げた色を乗せ、にじませる。

流し: 配色のバランスが落ち着いてきたところで、画面を上下左右に傾け、絵の具を自然に流す。これにより、筆跡をなるべく残さず、幻想的な背景を作る。

水彩画も学ばれているIさんは、この技法の理解が非常に速かったです。



計算された仕上げと、セザンヌの教え


背景が乾燥した後、いよいよ主役の描き込みです。
乾燥を待つため、ここでの作業は翌週の授業へと持ち越されました。

主役: 尾長鶏を繊細に描き込み、画面を引き締める。

柿の実: 濃淡のムラを作り、背景に合わせて淡めの色を多用するが、主役の周囲は濃度を高める。

完成画は、主役の尾長鶏に自然と視線が集まるように仕上げられています。
実は、そのための導線を作る役割として、柿の実の配置が綿密に計算されているのです。

近代絵画の父、ポール・セザンヌは「自然のあり方から学ぶ」と言い、例えば自然界には心地よいリズムの「粗密」があることを発見しました。
Iさんも画像資料をよく観察し、より良い粗密を作るための「足し引き」を行いました。


まさに「画家の目」を持って仕上げられた、素晴らしい秀作となりました。
早速、モチーフを提供してくれた友人にも、この作品の画像を送ろうと思います。

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